学長メッセージ
社会を改革し未来を切り開いていくグローバル人材の育成

はじめに
実践女子大学?実践女子大学短期大学部は、学祖下田歌子が「女性が社会を変える、世界を変える」という建学の精神の下、「品格高雅にして自立自営しうる女性の育成」を教育理念に掲げ、1899年に実践女学校、女子工芸学校を設立して以来、今日までこの精神と理念を確かに受け継いできました。今後もそれらを基に、教育、研究の一層の充実と、伝統と革新に溢れた新しい教育価値の創出を目指していきます。
教育について
世界では、現在、社会や経済、科学技術などの有り様が地球規模で連動し、広範にわたって構造的な変容を遂げつつあります。そのために、国々が相互に影響し、依存する度合いが急速に高まっています。貧困や紛争、難民、人権の抑圧、環境破壊など、国際社会全体に係わるものとして協力して取り組むべき課題も山積しています。一方、日本に目を向けてみるならば、少子高齢化による人口減少が加速し、労働環境における人材不足や介護問題が浮き彫りになっています。また、深刻化する相対的貧困からくる教育格差は、ジェンダー不平等とともに差別を生む温床となっています。
こうしたグローバル化時代の多様で流動的な社会では、前述したようなSDGsで掲げられている課題を自らの問題ととらえ、身近なところから取り組むことで、その課題解決につながる新しい考え方や行動を生み出し、それによって持続可能な社会を創造し、維持していける人材、いわゆるソーシャル?アントレプレナーが必要です。そのためには、知識伝達型の教育によって培われる幅広い教養や深い専門性に加えて、課題発見?解決能力、外国語運用能力、異文化に対する理解、文理横断的な論理的思考力や判断力、AIを活用するための数理?データサイエンスの基礎的素養といった能力?態度が求められます。本学では、これからも、学生がそうした能力?態度を実践し、未来のために自ら社会や世界をより良くしようとするマインド、すなわちソーシャル?アントレプレナーシップを育む教育を正課内外において展開していきます。
また、外国語運用能力やコミュニケーション能力を身につけ、異文化に対する理解を育むことは不可欠です。その能力や理解は、留学など海外での活動に活用、応用されることで実践力となっていきます。そこで、学生が、学びのフィールドを教室からキャンパスの外へ、地域社会や国際社会へと展開できるよう、たとえばクオーター制の導入など、教育課程やプラットフォーム、推進のための体制、環境をこれまで整備してきました。今後は、学びのフィールドを内から外へと広げる一方で、キャンパスの中に、教室に、社会人や留学生の学びのフィールドを拡充していきます。そして、特に海外からの留学生を積極的に受け入れていくことで、本学のキャンパスそのものをグローバルな環境にしていきます。
社会連携とグローバル化について
これまで、大学、短期大学部では、教育研究の大きな柱に社会連携とグローバル化の推進を据えてきました。本学の伝統に根差した、きめ細やかな教育によって得られる幅広い教養や深い専門性に加えて、社会連携の学びをつうじて自らの学びの社会的意義を理解し、社会の変化や発展に貢献できる実践力を養うこと。グローバルな学びにおいて国際社会の一員であることを自覚し、国際舞台で活躍できる実践力を養うことを目指してきました。そして、これらを推進するために、PBL等の課題解決型学習や国内外でのインターンシップ、国内外でのボランティア活動等を実施してきました。
社会連携の取り組みでは、企業や自治体等と連携した課題解決型の授業や課外活動プログラムなどを拡充してきました。またグローバル化の推進では、長期留学や短期留学はもちろん、海外でのインターンシップ等の様々な国際交流の取り組みを急速に拡大してきました。今後は協定の実質化とプログラムの充実を図っていきます。
さらに、本学では、外国語「で」学ぶというコンセプトのもと、海外での半年程度の長期インターンシップを単位化するなど、特色のある教育プログラムを提供しています。また、留学や海外インターンシップに参加した学生を対象に、海外での就職や起業、国内の外資系企業、海外進学やワーキングホリデーに至るまで、グローバルなキャリアを実現するための支援を開始しています。今後は「社会連携×グローバル×キャリア」という視点でのプログラムを具体化していきます。
研究について
高等教育における研究は、社会発展や世界平和への貢献となる知見の集積や、個人の省察や内省につながる知的探求という重要な社会的役割を担っています。さらに、今日では、新たな知識や価値の創出もまた研究に期待されています。それらに応えるためには、研究活動を専門化、細分化された分野の中だけに留めることなく、学際的、学融合的に進めていく必要があります。今後も、そうした趨勢を踏まえ、受託研究や共同研究とともに、たとえば私立大学研究ブランディング事業「源氏物語研究の学際的?国際的拠点形成」において得られた知見、成果の展開といった、文理融合型の研究をさらに推進していきます。 なお、個々の研究活動に対しては、従来のような、科学研究費補助金等の公的研究資金獲得に向けた支援、大学院生の研究活動等の支援の一方で、本学を象徴するような研究、本学に特有な独自的な研究も政策的に推進していきます。
学生支援について
グローバル化社会において、個人と高等教育との関係は大きく変化してきています。進学の時期、学生の学力や関心、卒業後の進路などが非常に多様化しており、卒業後に大学や大学院に通う人も多くなってきています。こうした状況において、多様な進学就職キャリアをもつ学習者個々の様々な需要に対して適切な学習機会を提供するとともに、学生総合支援センターを中心に、教職協働による個別支援体制をとおして学生支援を充実させ、適切な学習環境を整えていきます。社会人学生や長期?短期の受け入れ留学生へも個別に支援していきます。
高大連携について
高等学校と連携した教育における大学の利点としては、大学独自の研究内容や学部の情報を高校に提供できること、交流をとおして高校生が大学に対する知識が増え、 進学先の大学、学部とのミスマッチが起こりにくくなることが挙げられます。また、学ぶ目的を明確にして入学する学生は意欲的でもあるため、 大学はアドミッションポリシーに合った学生を集めやすくもなります。本学では、特に併設の中学校高等学校との教育連携「実践10年教育」を推進しています。今後はそうした点をより意識しつつ連携を深め、取り組みを実質化していきます。
おわりに
紛争によって世界が分断している現代こそ、年齢や性別、人種や国籍によって差別されることのない、そして一人ひとりが持てる能力を最大限発揮でき、個人として尊重される共生社会の実現が強く求められています。そうした混迷する社会情勢にあればなお、建学の精神と教育理念に立ち返り、10年後の本学が目指す高等教育機関としての在り方や方向性を確認し、グランドデザインとして新たに共有することはとても重要です。そのコンセンサスの下に、伝統を踏まえつつ、革新的で質の高い教育、研究を実現していきます。