人と環境の心理的相互作用に関する研究
<指導教員>槙 究
<発表日時>2023年11月11日?2024年3月31日 2024年2月9日
<発表場所>卒業研究発表会、本館427廊下掲示
私たちは、生活環境学科で学んでいく中で、身の回りの環境で行われる行動と環境の関係や、様々なデザインの認識や評価について調査および子育て世代の日常的な行動と環境の関連、物品と模様のマッチングのような認識?評価などのテーマで研究をできればと考え、身の回りの生活環境の色や質感といったデザインの構成要素の心理的な影響に関わる2つの研究を実施する。
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2023年度

(1)環境刺激に対する「気になる度合い」の個人差
さまざまな刺激に対して強い人、弱い人がいますが、環境刺激には音?光?ちらつき?体の揺れなど色々なものがあります。そこで、環境刺激に対する感じ方について、大多数が気になるもの、大多数が気にならないもの、人によって個人差が出るもの、がどのように分かれるのかを調査しました。
まず女子大学生13名に普段の生活で経験する様々な刺激に対して、何がどれくらい不快に感じているか、「視覚」「聴覚」「味覚」「触覚」「嗅覚」の五感に関連する項目に加えて「平衡感覚」「人間関係」に関するものを設定しアンケート調査を実施しました。
さらに、本調査では予備調査の結果から得た傾向を実証的に確認することを目的に、実験室で体験させることが可能なものを選出し行いました。音と映像についてはPsychopyを用いて実施し、眩しさについて、体が不安定な状態について、触覚的な刺激については実際に感じてもらうような実験を行いました。
その結果、高い音や機械のような音、ちらつきは大多数が気になり、ザワザワしているような音や弱めな光、若干の体の揺れはあまり気にならない刺激だということがわかりました。また、台風の音や時計のカチカチ音、くすぐったさ、人や物の往来などは感じ方に個人差があることがわかりました。
以上のことから、今回の研究を通して環境刺激に対する「気になる」度合いについて、大多数が気になるもの、大多数が気にならないもの、人によって個人差が出るものがそれぞれどういった刺激になるかわかりました。

(2)模様とモノのマッチング
身の回りにあるモノと模様の関係性が心理状態に及ぼす影響を調査しました。これは、2018年に行われた「プロダクトと模様のマッチング」の研究をさらに追求し、好ましいと感じる模様とプロダクトとの関連性を明確にし、Private物品とPublic物品の好ましさの違いを明らかにしました。
2018年の研究で使用された木目模様を含む44種類の模様、そして新たに自分がインターネット上で複数枚収集したものから選定した模様10種類の、計54種類の模様を選出しました。模様を追加したのは、過去に使用された模様が明度?彩度が低い全体的に暗い模様が多く、立体的?彩度が高いといった特徴のある模様が少ないと感じたため、鮮やかな模様や立体などの特徴的な模様を中心に追加しました。
物品の選定においては、「模様をつけたプロダクトの好ましさは、基本的にはそのプロダクトがPrivateなものなのかPublicなものなのかで変化する。ただし、スニーカーのような身に付けるものはPublic的なものに近い反応を示すsemi-Publicな物品と位置づけられる」という仮説に基づき、日常生活で多くの人が使用するものの中から、同じプロダクトのカテゴリーからPrivateとPublicの2種類を用意した「シェル型チェア」と「オフィスチェア」、「チェスト」と「キャビネットワゴン」に、semi-Privateの「ブラウス」と「ズボン」にPrivateの「デイパック」を加えた7種類に選定しました。
そこから、54種類の模様と7種類のプロダクトを組み合わせた378枚の画像を作成しました。それらを、光による画面への映り込みを防ぐために暗くした部屋においてモニター上に提示し、印象評価をしてもらいました。評価項目は「このプロダクトと模様の組み合わせはあり得る-あり得ない」、「自分にとって好ましい-好ましくない」という2項目で7段階評価とし、実践女子大学生30人に実験を行いました。
その結果、2018年の研究では、Private物品は全体的に評価が高く、Public物品は全体的に低い傾向にありましたが、2023年の結果では、Private物品に属する「デイパック」、「シェル型チェア」はPublic物品よりも評価の低い結果になったことから、Private物品?Public物品による好ましさの評価が2018年の研究と差違があることがわかりました。そして、視対象となるプロダクトか包み込むプロダクトかが好ましさの評価と関わっているという新しい解釈が可能であると考えます。