生活科学部食生活科学科の学生が「下諏訪宿本陣 EDO BENTO」の試作品を振る舞い、高い評価を受けました!(7/22)
生活科学部食生活科学科食物科学専攻(2026年4月から食科学部食科学科食デザイン専攻)の学生が7月22日、日野キャンパスで「下諏訪宿本陣 EDO BENTO」の試食会を開催しました。長野県下諏訪町の地域創生SDGsの取り組みの一環で、レシピ開発は、下諏訪宿本陣岩波家に伝わる伊能忠敬測量隊のための「献立書」がベース。目指したのは、江戸時代の食文化を現代に再現し、地域の観光資源になる「食文化体験型」の弁当です。当日は、佐藤幸子教授の指導の下、調理学第2研究室のゼミ生が弁当を試作。下諏訪宿本陣28代当主?岩波太左衛門尚宏氏や、「二十四節氣 神楽」(和食店)料理長の武居章彦氏、和食文化の権威で本学の元教授?大久保洋子氏らに振る舞われ、高い評価を受けました。
試食会で振る舞われた豪華弁当
伊能忠敬が宿泊した際の弁当再現から、さらに、観光客向けに販売が目標

江戸五街道のうちの中山道と甲州街道が合流する分岐点であり、中山道随一の「温泉宿場町」として栄えた下諏訪町。そこに位置する本陣岩波家は、多くの皇族や大名が宿泊したことで知られ、築約220年という建物は長野県の「県宝」にも指定されています。そして、この本陣岩波家に伝わる江戸時代の献立書は、日本全国を測量した伊能忠敬が宿泊した際のものということがわかり、2024年2月、佐藤教授はその一部の料理の再現レシピを発表。さらに、食文化の視点からこれをSDGsの取り組みへと進化させ、自身が率いる調理学第2研究室で献立書の3日目の食材を使って弁当を再現し、2024年7月、本陣 岩波家にて報告会を開きました。
今年度はこのプロジェクトをもう一段階発展させ、調理学第2研究室の2人のゼミ生を中心に、献立書をベースとした弁当レシピの開発に挑みました。献立書に記載されている全ての食材を選択。さらに、江戸時代の翻刻資料を参考に 江戸の食文化を生かし、かつ下諏訪町の地域食材も使用して地域の観光資源となるような弁当を開発、それを下諏訪宿本陣岩波家で販売することが目標です。
献立書には料理名や調理の仕方は明記されておらず、記されているのは、食材だけ。学生たちは室町時代から江戸時代の料理文献を19巻にまとめ集大成した料理書翻刻本『日本料理秘伝集成』(1985年 同朋社出版)や「新撰料理献立部類集」「豆腐百珍」といった江戸時代の料理書などを探求しながらレシピを考案しました。出来上がった弁当は、「下諏訪宿本陣 EDO BENTO」とネーミングしました。
この弁当には食文化の継承の意義があるだけでなく、人口減少や超高齢化社会が進む下諏訪町の新たな観光資源を創出し、地域創生につなげるという狙いもあり、商品化して観光客向けに提供するという目標に向け、試食したゲストから講評をいただくこともこの日の試食会の大きな目的でした。
諏訪本陣 岩波家に伝わる「献立書」から料理を再現

弁当のレシピ考案から試食会の実施まで、この一連のプロジェクトを卒業研究のテーマに設定した生活科学部食生活科学科食物科学専攻4年の小澤友唯さんと山崎結花さんを中心に、調理学第2研究室のゼミ生たちが準備を進めてきました。前日から仕込みを行い、試食会当日は20食以上の弁当を全員で協力して完成させました。
作った料理は実に10品。ご当地物や季節の食材を使用して仕上げた「下諏訪宿本陣 EDO BENTO」のお品書きは次のとおりです。

?鰻(ウナギ)蒲(かば)焼(き)
?鮑(アワビ)の蒸し煮(参考:『素人包丁初編』)
?鶏肉の炭火焼
?出汁(ダシ)巻き卵(参考:『新撰料理献立部類集』)
?干瓢(かんぴょう)の胡麻(ごま)酢和え(参考:『精進献立集』)
?突き蒟蒻(こんにゃく)の吹寄せ(参考:『こんにゃく百珍』)
?長芋(いも)の出汁焚(た)き(参考:『素人包丁二編』)
?栗の浅茅田楽(参考:『素人包丁三編』)
?椎茸?人参の甘煮
?物相飯(もっそうめし)

加えて、ゆくゆくは下諏訪宿本陣岩波家の和室で商品として提供することを想定し、「献立書」にはない次の品もセットで提供しました。
?汁物:海老団子のすまし汁
?香の物:野沢菜
?御抹茶&水菓子:水羊羹(ようかん)(白餡(あん)仕立て)
?夏イチゴ
試食をしたのは、岩波氏、武居氏、大久保氏らゲストと、佐藤教授、ゼミ生たち。特注した竹かごに美しく盛り付けられた弁当は目でも楽しめる出来栄えで、参加者たちは、和やかに歓談しながら一品一品を丁寧に味わい、学生たちが一生懸命作った豪華弁当に舌鼓を打ちました。
レシピ開発の背景を学生らがプレゼン

試食後は、小澤さんと山崎さんの2人が、どのような意図でこの弁当を作り上げたか、レシピ開発の背景をプレゼンしました。
例えば、「(下諏訪町を流れる)承知川の支流まで遡上した鰻を釣って食べていたという記録があり、地域食材としての鰻を主菜にした」「江戸時代は貝類としてよく鮑が使われていたことから、圧力鍋で鮑を蒸し煮にしてふっくらと仕上げた」「江戸時代に多用されていたシギを鶏肉で代用し、炭火で焼いて地元の七味唐辛子を添えた」「江戸時代にこんにゃくいもを乾燥製粉したこんにゃく粉が考案され地域で製造されるようになった。今回は突きこんにゃくをダシで煮てから揚げ物の吹き寄せとした」等々。
江戸時代の食文化をベースに独自の発想を加えながら、伝統ある本陣岩波家にふさわしい商品にしようと努力を重ねたことを明かしました。
そんな学生たちの熱い思いを受け、ゲストからも、完成度の高い弁当にするため、「本陣岩波家で提供すると仮定した場合の料金設定は?」「突きこんにゃくを揚げ物にアレンジした狙いは?」といった質問や、「もう少し下諏訪地域の郷土料理のような甘めの味付けにしては?」「ご飯の量が多い」といった意見も。逆に学生たちから「白和えに使う豆腐のベストな割合は?」などとゲストにアドバイスを求める場面も見られました。
講評を受け、弁当の商品化にさらに歩みを

講評においても、各氏から貴重なアドバイスが寄せられました。
?「たくさんの文献を読み込んで研究し、自分たちなりの解釈やアレンジを加え、これだけの種類の料理を準備したことは評価に値する。すべて合格点だが、ご飯は料理に隠れて物相飯だとわからなかったので、盛り付けに工夫を加えるとよい。料理とは面白いもので、食べてしまえば形をなくす。作品として形に残せないが、記憶の中に積み重ねていける芸術。努力を重ねて、さらに腕を磨いてほしい」(大久保氏)
?「岩波家に残されていた伊能忠敬が宿泊した際の献立書が、このような弁当として形になって感慨深い。味付けも含めて新しい感覚?感性で楽しめるすばらしいお弁当だった。地域で観光に携わる者として、せっかく観光客の皆さんが下諏訪町に足を運んでいただいても、キャパシティーの問題で現地の料理を振る舞えない現状をどうにかしたいと考えていた。江戸食を再現するこの弁当は、“食”だけでなく“体験”をも提供する観光資源としての可能性を秘めている。商品化に向けて引き続き学生の皆さんのお力をお借りしたい」(岩波氏)
?「味付けも色合いも盛り付けもバランスが良く、考え抜いて作ったことが伝わってきた。例えば、ニンジンが入るか入らないかというちょっとしたことでも弁当の印象は変わる。そういった繊細な感覚をこれからも大事にしてもらいたい。料理は食べる人のことを思いながら作る姿勢が大切。この弁当は、下諏訪宿本陣岩波家という由緒ある建物の中で食すというシチュエーションや、訪れる観光客の客層を考慮して作られたものだと感じた」(武居氏)

また、小澤さんと山崎さんを手伝い、調理に参加した学生たちからも感想が述べられました。
「大量の文献にあたり、苦労してレシピを開発しようとする姿をそばで見ていたので、今回、試食品を完成させることができたことをうれしく思う」「2人の思いが伝わってくるのを感じた。おいしかった」「自分は栄養士を目指しているので、普段は栄養バランスを中心に献立を考えるが、その土地の文化や素材の良さを生かすという視点もあるのだと改めて気づかされた」等々。2人の努力をたたえるコメントが続きました。
そして最後は、佐藤教授が「料理を作るということはそれを食べる人がいるということ。学生たちがそれに対し理解を深める良い機会になった」と、ゲストの皆さんに感謝を述べて試食会を締めくくりました。
なお、この試食会で得られた意見を生かし、学生たちはさらに献立や調理法を改良し、プラッシュアップした弁当を作ります。そして、10月8日、下諏訪町の下諏訪宿本陣岩波家で、マスコミ各社をお迎えし、いよいよ本番となるお披露目会を開く予定です。
【学生のコメント】

もともと和食に興味を持っていたところ、調理学第2研究室では江戸時代の和食文化を形にし、地域の観光資源として役立てるプロジェクトに取り組んでいると知り入室を決めました。
私たちは、このプロジェクトを卒業研究のテーマに設定し、献立書に書かれた食材を使って料理を再現するにとどまらず、地域の観光資源となる「食文化体験型のお弁当」として商品化することを目的にレシピ開発に励んできました。献立書には食材しか記載がなかったため、その食材をどのくらいの分量で、どのような調味料を使い、どのように調理すべきか、多くの文献をあたって徹底的に研究しながら試作を繰り返しました。商品化した弁当は、長野県宝に指定される本陣岩波家で提供することを想定しているため、格式や高級感を出すのにも苦労しましたが、おかげで料理の知識や技術をさらに深めることができました。
試食会開催にあたっては、人数分の弁当をきちんと準備できるか不安もありましたが、開始時間に間に合うよう無事完成させることができ、「おいしい」という感想までいただけて大変うれしく思います。自分が作った料理を提供するという貴重な経験ができましたし、人とのつながりの大切さや地域社会への貢献のやりがいを再認識する非常に良い機会になりました。
今後は、今回の講評でいただいたご意見をもとにレシピを改良し、よりクオリティーの高いお弁当を本陣岩波家で披露できるよう、努力を続けていきたいと思います。
(生活科学部食生活科学科食物科学専攻4年 小澤友唯さん、山崎結花さん)
生活科学部食生活科学科 佐藤幸子教授のコメント

今回の試食会は、学生にとって非常に貴重な経験となりました。食文化継承の意義を学んだのはもちろんのこと、自分が作った料理を提供し講評をいただくという体験を通して、食に関する意識をさらに深めることになりました。
現代にはさまざまな調味料や加工食品がありますが、今回は料理の「さしすせそ」といわれる「砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそ」のみを使って味付けしています。学生たちは食材本来の味や、それを生かすことの難しさ、おいしさの本質について深く考える機会を得ました。「甘い、酸っぱい、塩からい、苦い、旨(うま)い」という味と「赤、青(緑)、黄、白、黒(紫)」という色を料理に盛り込む「五味五色」という概念が、実はサイエンスに裏付けされたものであることも肌で実感。冷蔵技術がなかった時代に、いかに食材を保存し、おいしく食べるかという先人の知恵に触れることで、現代の食文化が歴史の上に成り立っていることも再認識したはずです。
一方、今回のプロジェクトは、地域社会との連携による教育的効果も生み出しました。ゼミ生たちは下諏訪町に足を運び現地の文化や暮らしに触れ、地域の課題を理解した上で、このプロジェクトに挑みました。地域の人たちから期待を寄せられ、自分たちの活動が喜ばれるという経験を通して、大きな自信を育んだと思います。
昨年度、初めて本陣岩波家で古い献立書の料理の再現に挑んで以降、この一連の取り組みには内外から大きな反響をいただいています。そのおかげで、今年度は「下諏訪宿本陣 EDO BENTO」の商品化フェーズに突入しました。今後は、この「下諏訪宿本陣 EDO BENTO」が地域の観光資源として定着し、地域創生に貢献するものとなるよう、引き続き学生たちを支援してまいります。